教授ご挨拶
東海大学医学部先端医療科学 教授
同 大学院医学研究科
マトリックス医学生物学センター長
稲 垣 豊
臓器線維症や動脈粥状硬化症など、慢性炎症に起因する組織リモデリングは全身臓器に認められ、その総死亡数は癌患者数をも凌ぐと言われています。また、今日の超高齢化社会において、骨・関節組織の変性疾患は日常活動に支障をきたし、多くの内臓合併症をもたらします。これらの疾患における共通病態として、細胞外マトリックスの質的ならびに量的異常が挙げられます。細胞外マトリックスは、細胞の発生・分化・増殖・老化に深くかかわり、組織修復や創傷治癒においても重要なはたらきを演じています。しかしながら、わが国ではマトリックス研究の重要性に対する認識が甚だ乏しく、それ故にマトリック
スの変容機序について系統的研究を行う施設は皆無でした。
本センターは、内的(加齢、酸化ストレス、代謝、免疫)あるいは外的(感染、環境中物質、薬剤、加重)な細胞ストレスが加わった際の防御反応としての炎症と組織修復、さらにそれが破綻することで生じる線維症や変性疾患について臓器横断的な研究拠点を形成し、その病態解明により診断・治療法の開発に繋げることを目的に設立されました。 局所のマトリックス環境を研究することは、癌の発生や進展機序を理解して新たな治療法の開発に繋げる上で、また組織の再生機序を解明して再生医療の実現化を目指す上でも大きな意義があります。
マトリックス研究が有する学際的特徴を最大限活かして、学内の研究者・大学院生が一堂に会し、またこれまで同様に学外の研究者とも活発な共同研究を推進して、新たな学問の潮流となることを目指します。